「あ、北山さん早かったね。ちゃんと仲直りできた?」


スタジオに戻るとやけに笑顔のヤスがいた

ノートパソコンを開いてW杯のトピックスを見ているらしい


「あれ、皆は?」

「北山さんが出てっちゃったし、作業進まないから1時間休憩。

で?仲直りはできたの?」

「・・・・・別れた」

あっさりと返事する俺に どう思ったのか反応はあまりにも薄い

さっき俺が行く前に聞いてたんだろかと考えを巡らせていると



「ホントに北山さん ちゃんと別れちゃっていいの?」

「いいのって・・・良いわけないだろ」

「でも携帯を勝手に触られていつまでも怒ってるじゃん」

「そりゃムッとはしたよ。だけどそんないつまでも怒ってる訳ないだろ?」

「だったら何でそれ ちゃんにちゃんと伝えないのさ?

言葉で相手に伝えなきゃお互い何も分かり合えないままだよ?」


俺がしばらく黙ったままでいると

ため息ひとつこぼし


「ねね、聞いていい?」

「ん?」

「北山さんにとってさ ちゃんってどんな存在なの?」


そう言われた瞬間、さっきが言っていた言葉が脳裏を過ぎった



“私って陽一にとって他人なの?”


自嘲気味に笑っていると ヤスが怪訝な顔をしている

「どしたの?」

「ごめん ごめん。さっきさ、に言われたこと思い出してさ」

「なんて言われたの?」

「俺にとっては他人なのか?って聞かれてさ」

「なんて答えたの?」

「いや、答える前に 振られた」

「ふーん」

「他人は他人だよ。だけど“あかの他人”じゃない。“最も近い他人”ではあるけどね」

「それさ、ちゃんと言ってあげれば?俺じゃなくて」

「でも・・・」

「言わない後悔なら 言った後で思い切り後悔すればいいでしょ?」

そう言って俺の肩を叩く

ちゃん 下の受付に来てるよ」

「え、何で?」

もの凄い間の抜けた返事をすると


「だから、ちゃんと分かったんでしょ?北山さんにとってちゃんはどんな存在かって事」

「あ・・・もしかして」

「いいから 早く行ってあげなって。休憩あと10分しかないよ」


そう言われ ダッシュで下のロビーへと向かった


「全くもう・・・・」

「おい、どうだった?」


てつがペットボトル片手にスタジオに戻ってきた 


「ホント 人の事になると恋愛相談だの相手の気持ちとか上手い事言うのに」

「いいんじゃねぇの?自分の事となると分からなくなるってのもアイツらしくて」

「っていうか もう少し彼女の気持ちをわかってあげられたらねぇ」

2人して笑いながら 出入り口のドアを見つめる







ロビーに着き見渡すと 受付横のソファーに座っているを見つけた



「あ・・・」

向かいのソファーに腰掛けるけれど

どう話を切り出したらいいのか 


これじゃ 『恋愛の魔術師』も聞いて呆れる


「さっきは、いや 今朝は怒ってごめん」

「陽一?」

「俺にとっては・・・・今朝の返事だけど・・・

あかの他人じゃなくて俺にとって一番近くにいる他人」


返事をする訳でもなく ただ黙って俺の声に耳を傾けている


「そしてこれからもずっとそばにいて欲しい人・・・だから、本当に怒ってごめん」


そう言いながら頭を下げると にこりと笑って彼女は席を立った

「私も勝手に陽一の携帯触ってごめんね。急ぎの電話かなって思って

丁度 携帯を持っただけだから。中身は見てないよ」

「いや、別に見られても変なもの入ってるわけじゃないからいいんだけど」

視線を泳がす俺に 突然彼女は笑い出し

「だから もうこれは『おあいこ』でいいでしょ?ねね、もう休憩終わりなんじゃない?」

「あ・・」

「もういいから行って。終わったら連絡頂戴ね」


結果 仲直りは出来たけれど

俺が喫茶店に行くまでに 

ヤスが企てた<作戦>だった事に気が付いたのはこの時だった




「北山さん、仲直りできた?」

笑顔のヤスに 

「ヤス」

笑顔で返す

「・・・・なに?」


笑顔が少しひきつってるけど

そんな事は気にせずに・・・


「これ、ヤス頼んだよ」

そう言って手渡したものは 新しく作った曲

しかも3曲


「来週中に 頼むね。あ、俺まだ作業残ってるから、

てっちゃん何かあったら雄二と隣の部屋にいるから声かけて」

「あ、あぁ」



バタンとドアが閉まった後も 手渡された譜面を呆然と眺める

「アイツは絶対怒らせたら怖いよな・・・」

「もぉーーー!!俺 サッカー中継に集中できないじゃんよーー」

良かれと思い ちゃんに吹き込んだ『作戦』

見事成功と思いきや いわゆる<予想外>の結末に

そのまま机に突っ伏す30代1名

あとがき・・・
 メッセンジャーにて話をしていた時に
「北山さんが怒ったらどんなだろう?」という所から話が進み(進ませないの)、結果がこのざまです(汗)
Hちゃんへ 気に入っていただけましたでしょうか?