先に彼女を 車に乗せ

俺は自販機に立ち寄り 暖かい飲み物を手に車に乗り込む


「これ、熱いから気をつけて」

「すいません」


ミルクティを一口飲み込むと ホッと小さくため息をこぼし

頬が少し赤くなったように見えた


彼女はそのまま視線を変えず




「ありがとうございます」



小さく呟いた




「ん?何が?」

「ここに連れて来てくださって・・・

ここ最近 彼とも前ほど連絡が取れなくて。

今日 本当に久しぶりに会えると思って楽しみにしてたんです。

仕事だからしょうがないって 頭では分かってるんですけど・・」




言葉の最後はもう車内でなけりゃ聞き取れない程の小さな声

俺は聞き逃すまいと 彼女を見つめる


これだけ楽しみにしていた予定を アイツはどう思ってるんだ?

悪いとは思っているだろうが恐らくそこまで気にも留めていないんでは

せっかく久しぶりにゆっくり会える日だったのに

断ってでもさんを悲しませるような真似なんか出来ないぞ




抑えていた気持ちが今にも噴出しそうで

俺も手に持っていた缶コーヒーを自分の押さえきれない感情ごと飲み干した






「んー、まぁ今日はさ 嫌なこと忘れてこの景色を楽しもうじゃないの。な?」

「あ、ごめんなさい。つい酒井さんに愚痴っちゃって(汗)」

「いやいや いいよ。気にしなさんなって。

さぁ、じゃーもう少し先に行ってみるかい?」

「そうですね(笑)そうしましょうか?」


そう言うと車は都心部から逆らうように先へ走らせた





連れ去ってしまいたい


そんな衝動と必死に戦いながら





東京とは思えない空間

自分自身も久しぶりにハンドルを握り 長距離を運転する事もあって

ちょっとした遠足気分にもなっていた



しかし・・・確か明日って昼から取材入ってたな・・・

まぁ 夜中までに自宅に戻れればいいかね




辺りはすっかり暗くなり 甲州街道を更に進むと湖が見える

「おー、相模湖だ」

そのまま 車を湖沿いの駐車場に停め車から降りて

ゆっくりと歩き出した


「ほら、さっきよりぐっと冷え込んでるから」


そう言って彼女の肩に自分の着ていたジャケットをかける

一瞬 ためらうような様子だったが「ありがとうございます」と言うと

しっかりと着なおした



「夜には来た事ないが、こういうのも結構綺麗だなぁ」


湖の周りはライトアップされている

その明かりに照られている木々の鮮やかさは見ごたえ充分過ぎる程だった


「私も初めて ホント綺麗ですね」


嬉しそうに答えると 


しばらく2人、湖の淵に沿うようにして何も言わず眺めていた








いま ここで彼女の肩を抱けたなら・・・







再び そんな事を考えている時だった

彼女の肩が震えてる?

ジャケット越しに微かだが 震えているように見えた


「寒いなら・・・ちゃん?」


顔を覗き込んだ時 ハッとした

泣く事を我慢している

だが彼女の大きな瞳は涙で揺れていた


「ごめんなさい・・・泣くつもりなかったんですけど」


慌てて涙を拭い 笑っていた




なにか痛々しく笑う彼女を見ると、思うより先に体が本能に従い

俺は彼女をぎゅっと抱きしめた




「気が済むまで ここで泣いていいから」




少し体を離し、そう言うと彼女にそっと口付け


そのまま何も言わず彼女を再び 自分の胸に抱いた



彼女は 声を出すのを堪えて

俺の胸で泣いていた